コンサルタントとして私が直面した、あるネイルサロンの事例は、「本当に解決すべき課題は何か?」を見極めることの重要性を教えてくれました。この話は、ビジネスにおける問題発見能力(問題定義)の重要性を最もよく表しています。
そもそも「問題定義」とは何か?
多くの人が、「問題解決」とは解決策を実行することだと考えがちです。しかし、本当に重要で、かつ最も難しいのは、「何が真の問題なのか?」を特定するプロセス、すなわち問題定義(イシュー・アナリシス)です。
問題定義とは、「目に見えている現象」と「本当に解決すべき真の原因」を切り分ける作業です。
<間違った努力のワナ> 人は目に見える「現象」に飛びつきがちです。
現象: 「風邪で熱が出た」
安易な問題定義: 「熱を下げる薬を飲むべきだ」
しかし、熱は体がウイルスと戦っている現象であり、原因ではありません。熱の原因がインフルエンザなら、インフルエンザ特効薬が必要です。熱を下げるだけでは、根本的な解決にはなりません。
ビジネスも同じです。今回のネイルサロンの事例も、まさにこのワナにはまっていました。
ステップ 1:現場の訴えと「違和感」を持つ
店舗責任者から寄せられた相談は、スタッフMさんについてでした。
| 項目 | 内容 |
| 現象(アウトプット) | 売上が低い。口コミでクレームが多い。 |
| 責任者の見解(表層的な問題定義) | 技術力が低いのが原因。技術指導を強化すべき。 |
私はこの責任者の見解に「待った」をかけました。
ネイリストとして2年近い実務経験があるM子さんが、致命的な技術力不足である可能性は低い。もし本当に技術が低ければ、お客様から指名も取れず、もっと早く退職しているはずです。
「技術力不足は結果であり、原因ではないのではないか?」
この「違和感」こそが、真の課題発見の第一歩です。
ステップ 2:「なぜ」を繰り返して真因を深掘りする
現象を鵜呑みにせず、Mさん本人へのヒアリングや現場観察を通じて、問題の階層を深掘りしました。
| 思考の深掘り | M子さんの事例 |
| Q1: なぜ売上が低いのか? | A1: クレームが多く、リピート率が低いから。 |
| Q2: なぜクレームが出るのか? | A2: 施術中のミス(塗りムラなど)や、お客様に「この人で大丈夫かな?」という不安感が伝わるから。 |
| Q3: なぜミスや不安感が生まれるのか? | 真因: 「自分の技術で満足してもらえるか不安だ」という自信のなさが、焦りや行動の消極性につながっていた。 |
真の原因(ルートコーズ)は、技術のスキル(How to)ではなく、自信という心理的なマインドセット(Why)にあったのです。
ステップ 3:本質的な課題に合わせた解決策を定義する
真因が「自信のなさ」と判明した以上、技術指導を強化しても効果はありません。
私たちが本当に解決すべき課題は、技術力の向上ではなく、Mさんの「自信」を取り戻すことに変わりました。
| 安易な解決策(責任者の見解) | 本質的な解決策(コンサルタント) |
| 技術指導の強化(スキルへのアプローチ) | メンタルブロックの解消と、成功体験の創出(心理へのアプローチ) |
本質的な課題に焦点を当てることで、解決のためのリソース(時間、予算、指導者の労力)を、最も効果的な場所へ集中させることができるのです。
教訓:問題定義はビジネス成功の最重要スキル
今回の事例が示すのは、表層的な問題に惑わされてはいけないということです。
目に見える「売上」「クレーム」という結果を叩くのではなく、その結果を生み出している「行動」、そしてその行動の源にある「真因」を深く追求する能力。これこそが、マネジメントやビジネスにおいて最も重要で、レバレッジの効くスキルなのです。

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